世間はゴールデンウィークの真っ只中ですね。もしかしたら通常営業をされている整備工場もあるかもしれません。
Front Mechanicの小林です。
本日は、私がフロントになって最初に経験した大失敗の案件についてです。
結果を先に書いておくと、お客様を大激怒させる事になり、2時間以上かけてお詫びをすることになった案件です。
お恥ずかしながら、和解をして、それから10年近く経過している今でも、そのお客様が苦手になってしまいました。
ことの発端は車検整備です。当時フロント業務に当たっていた私は、整備班からの受け入れ内容と推奨整備の報告を、お客様に伝える役割もしていました。
このお客様への提案や報告は、会社によって違うと思います。
私が当時所属していた会社の部署は、その全てをフロントマンが請け負っていました。
その量たるや相当で、車検整備は毎日10台以上の入庫。法定点検や一般整備も10台を毎日軽く超える入庫量です。
単純にいうと、20数件の作業内容をお客様にお伝えしないといけないわけです。
もちろん、代車を貸し出していることもあるので、作業の了解はすぐにもらわないと、予定通りに仕事が完結しません。
そんな膨大な量の見積もり制作と連絡、納車の段取りに、フロントになりたての私は辟易していました。
管理ユーザーが3000人を超える規模の部署を、たった一人のフロントマンが全て回しているのです。
今もそうですけど、フロント業務を何周かしていると、お客さんの特色がつかめてきます。これはまた後に話しますけど、フロントになりたての頃って、お客さんがどういう人となりなのかがわからない。
そのために、すべての作業に対して連絡をして了解を得る作業を日々繰り返していました。
そんな中、潜んでいたのが某セダンの車検です。
国産メーカーの某セダンの車検で、そのお客さんとのやりとりは始めてでした。
整備班からの受け入れを見ると、意外な結果が書いてあったのです。
それはミッションからのオイル漏れ。新車からの初車検です。走行距離は3万キロ弱。
新車の保証って、一般保証と特別保証に別れます。一般保証は3年ですが、特別保証は5年。
ミッションからのオイル漏れは特別保証に部類に入ります。間違いなく新車の保証整備で治せる内容でした。
そのお客様には代車をお貸ししていました。遠方へ通勤される方で、当社所有の一番いい小型車のETC、ナビ付きの代車です。
初車検だったということもあり、車検整備は長くても2日で終わるだろうと踏んでいた私は、代車を2日間しかおさえていませんでした。
しかし、車両を確認するとまさかのミッションオイル漏れです。4WDで、おそらくトランスファのオイルシール付近から漏れているんじゃないかなと。
とりあえず、業販してもらったディーラーに連絡をしたところ、あろうことか定休日です。しかも車検終了予定の明日も連休になっています。
この状態ではいかんともし難いので、お客様に相談をしました。
取り合えず、代車を2日しかおさえていないので、一旦車両をもどしてもいいですか?と。
明後日ディーラーが開いた時点で、保証修理の段取りをつけて、あらためて代車を手配して修理。車検に入りたいと。
次の仕事も立て込んでいたので、フロントになりたての私は焦っていたんです。
すると、お客さんから
「その漏れている部分を写真に撮って、明日家に説明しに来い!」
と言われました。フロントになってからというもの、そう言ったリアクションをもらったことがなかったので、正直困惑しました。
翌日お客様宅へ言われた通りに車両を戻しがてら、写真を見せて説明すると、お客様は大激怒です。
そのお客様はとある企業の社長をなさってる方で、人生でここまで激しく怒られたことはなかった。そのくらい激怒していました。
お客様が怒っている理由は
1、新車なのになんでそんなところからオイルが漏れているんだ?
ということ。
そして、
2、どの程度オイルが漏れていたのか?
ということ。
この問いかけに対して、私は明確な答えを用意していなかったため、しどろもどろになり論破されてしまいました。
最初の新車なのになんでミッションからオイルが漏れているんだ?という問いかけについては、工業製品なので、100%をメーカーは目指しているが完璧ではない。
ということを重点的に説明しました。
自動車の製造はオートメーションですが、人の手が加わる部分もあります。
この某セダンの場合、ミッションは内製ではなくて、アイシンから買っているはず。
こういうことが起こり得るので、新車の保証があると。保証で負担なくきっちり治すことが可能であると、丁寧に説明しました。
問題は次の問いかけです。
どの程度オイルが漏れていたのか?
という質問でした。
この社長さんは工業系の会社を経営しています。ある種機械のスペシャリストなんです。
社長さんから聞かれた質問には続きがありました。
「だったらお前、この車のトランスファのオイル量は何リットル入ってるんだ?そのうち何リットル漏れていたんだ?」
と。
まさかこんな質問を追加でもらうとは思わず、調べてくることを忘れていたんです。当然整備士から、オイル量は補充をして車を戻すようにと指示はしてありました。
その補充したオイル量がどの程度入ったか聞いておくことも忘れていました。
この問いかけに対して私が、明らかにしどろもどろになったことに拍車をかけて、社長さんは大激怒。
今すぐ帰れ!と追い出されてしまったんです。
まさかこんな展開になるとは全く想像つかずで、会社の上司に報告を入れました。
とりあえず担当のセールスに仲を取り持ってもらい、ディーラーに保証修理を依頼。その後車検整備で再びお預かりした後、再度完了の報告と謝罪をしにいきました。
社長さんから言われたことは、プロフェッショナルに欠ける!という一言でした。
相手が疑問に思った事に即座に返答できなかった事。不安を過らせた事。
そして、相手の立場に立って考えていなかった事。
この後私は相当凹んで自問自答を繰り返しました。一体何故こうなったのか?私が社長さんだったらどう考えていたのか?
社長さんからしてみたら、大枚叩いて買った高級セダンです。それが初車検であろうことかミッションからのオイル漏れです。
もう大変なショックなわけです。まずそこの部分に共感をしてほしかったと。自分で一生懸命に貯めたお金で買った新車。
それが自分の過失でもなんでもないのに、ミッションからオイルが漏れていたわけです。
入っているべきオイルはどのくらいで、実際に何リットル抜けていたのか?
その状態で高速道路を走行していたはずなので、今後ミッションへのダメージはどうなのか?
そもそも新品のミッションに載せ替えてくれないのか?
もういろいろな不満が出てくるわけです。結局こちらのミッションの整備は、担当ディーラーで分解され、オイルシールの交換をして終了となりました。
内部の状態をどこまで検証したかは不明ですが、異音もでていなかったのでオイルシールの打ち替え修理で終了することが妥当だと判断したようです。
この修理内容についても、お客様は大変に不満をもったわけです。
ダメージを負ったミッションを使い続けなければいけない。万が一この後に壊れたらそれは保証期間が終わっていても、無料で直してもらえるんだろうな?と。
もうぐうの音も出ない強烈な経験となりました。
この一件があったからこそ、私はサービスフロントとして一皮むけたと思っています。
社内での私の危機管理能力は、この一件を機に飛躍的に上がりました。
やはり経験というのは、研修では得られない自分の血肉となっていくのです。
どんな事例であっても、まずはお客様の側になって想像してみる。そこからがスタートです。
フロントとしてお客様と接している時は、そこが一番重要なんだと学びました。